社会に大きな変化をもたらしたイノベーションでさえも、アイデアが生まれた当時には「そんなものはおもちゃに過ぎない」と批判をされていたことがあります。それでは、一人の人間が着想したアイデアは、どのように周囲の人々を巻き込み、最終的には社会を変えるに至るのでしょうか。私のゼミでは、このようなイノベーションが実現するまでのプロセスについて、皆さんと一緒に考えます。
その際には、これがベストというわけではありませんが、私の経験を踏まえて、以下の3つを重視します。
1.個人の声を聞く
インターネットや本から情報を得ること以外にも、自分の目と耳で現場を知ることを重視します。当事者の声に直接耳を傾けると、自分とは異なる考え方をしている人がいることや、それぞれの人が立場によって違う問題に直面していることが分かります。このような原体験があれば、他者がどのような問題を抱えているのか、いかにして解決しようとしているのかなど、他者の視点から物事を考えられるようになります。
2.個人と全体とのギャップを考える
他人の視点を取り入れることによって、逆説的に、自分独自の問題を設定できるようになります。最も単純な問題としては、自分の考え方と他人の考え方が異なる場合には、なぜそのような違いが生まれるのかを問うことができます。さらに、それぞれの人の行動が全体に及ぼす影響を考慮すれば、ある人がよかれと思ってした行動が、全体としては悪い結果になっているのはなぜか、あるいは、一見すると悪手のように見えた行動が、回り回って良い結果を生んでいるのはなぜか、といった素朴でありながらも興味深い問題を設定することもできます。
3.相互作用を追う
そのような素朴な問題は、皆さんが全体を俯瞰する視点を持つことで解決できるかもしれません。それぞれの人はどのような文脈に置かれているのか、それらの人は何を目的としていかなる行動をとるのか、その行動は他者の行動にどのような影響を及ぼすのか、それらの行動は全体としてどのような結果をもたらすのか、といった人と人との相互作用を丹念に追っていくのです。そうすれば、特定の人の立場からだけでは理解できなかった出来事を、鮮やかに理解できるかもしれません。
これらの3つの点を検討することで、皆さんは自分で問いを見つけて応えられるようになります。その過程で、皆さんは社会のなかでの自分の位置づけを把握し、自らの目標を達成するために必要な方法を考えられるようになるでしょう。その結果として、皆さんは自立した人間として社会に貢献できるようになると思われます。