心理学は心のしくみを扱う学問で、日常や社会のさまざまな問題解決に活かせます。私が研究しているのは、人や組織、チームにかかわる課題に心理学を活用する研究領域で、組織行動論と呼ばれます。例えば、組織行動論の重要なテーマの1つに、「チームや職場内の対立・衝突」があります。正直、対立は避けたいものです。みなさんも、グループワークなどで、できるなら波風を立てたくないと思うでしょう。ただ、対立を嫌がるあまり、誰も意見を出さなくなってしまうグループも、良いグループだとは言えません。
「対立は避けたい。でも、意見は出てほしい」。このジレンマは、みなさんの日々の経験を超えて、ビジネスの現場でも頻繁に起きています。だからこそ、コンフリクト研究というテーマの下で、「対立をどう扱えば、チームを壊す火種ではなく活気づける力に変えられるのか」を明らかにする研究が進められています①。
組織行動を学ぶうえで大切なのは、理論を無理やり当てはめる前に、「そもそも何が問題なのか」を丁寧に確かめることです②。たとえば、あるレストランでアルバイトのやる気が低いときに「Z世代だから」と決めつけてしまう人がいますが、それは危うい見方です。よく確かめてみると、顧客の要望に本気で応えたいのに、職場のルールがそれを妨げており、顧客に対して「それは無理です」と断ることにうんざりしているのかもしれません。
原因がそこにあるなら、「Z世代だから」という決めつけは何の意味もなく、顧客のために本気で応えるための裁量を与える「エンパワーメント*」の考え方が求められるのです。そうやって顧客のために本気になれる職場だからこそ、顧客からさらに信頼されるようになり、もっといろいろ任されるようになる。組織行動論の研究では、こうした良循環が生まれることが証明されています④。
生成AI**を用いることで、最新の理論について素早く、そしてわかりやすく理解できるようになりました。だからこそ、理論をたくさん知っているだけでは、もはや何の付加価値にもなりません。そのような時代の変化の中で、人間が持つ強みとは、目の前の職場で何が起きているかを決めつけることなく観察し、働く人の気持ちに寄り添い共感し、「何が問題なのか」を問い直す力です。組織行動論とは、まさに、人と組織にかかわるそのような力を磨くための研究なのです。
ある研究では、AIの登場によって、価値の低い仕事をAIに任せることで価値の高い仕事に集中できるようになった結果、AI登場以前よりも高付加価値な人材へと成長できた社員が生まれたというエビデンス***が紹介されています④。AIに置き換えられる人材ではなく、AIによって逆に価値を高められる人材になるための研究が、組織行動論だと言えるでしょう。
① 宍戸拓人(2020)「コンフリクト・マネジメント・フレームワーク──近年のコンフリクト研究に対する文献研究より」『日本労働研究雑誌』62(7), 37–49
② 宍戸拓人(2022)『あなたの職場に世界の経営学を──最新理論で「仕事の悩み」突破』日経BP
③ Dong, Y., Liao, H., Chuang, A., Zhou, J., & Campbell, E. M. (2015). Fostering employee service creativity: Joint effects of customer empowering behaviors and supervisory empowering leadership. Journal of Applied Psychology, 100(5), 1364–1380.
④ Jia, N., Luo, X., Fang, Z., & Liao, C. (2024). When and how artificial intelligence augments employee creativity. Academy of Management Journal, 67(1), 5–32.
* エンパワーメント(empowerment)とは、現場で働く人たちに「自分で考えて決める権限」を与え、任せることです。マニュアルに縛られず、自律的に動けるようにすることで、働きがいやサービスの向上につなげる経営手法です。
** 生成AIとは、あらかじめ学習した大量のデータをもとに、まったく新しい文章や画像、音楽などを創り出す(生成する)ことができるAIのこと。ChatGPT、Gemini、Copilotなどが代表例です。これまでの検索やデータ分析が得意なAIとは違い、人間の指示に合わせて、まるで人が作ったようなコンテンツを生み出してくれます。
*** エビデンスとは、何らかの主張の背後にある証拠や根拠のこと。ビジネスや大学の研究では、単なる思い込みや個人の感想ではなく、データや調査結果などによって客観的に裏付けられた事実のことを指します。「なんとなくそう思う」ではなく、「こういうエビデンス(データ)があるから正しい」というように使われます。
みなさんは「会計」と聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか。「数字ばかりで難しそう」「計算がたいへんそう」と思うひとも多いかもしれませんが、会計(Accounting)を一言で言い表せば、「計算すること」ではなく「説明すること」です。説明する(何かを表現してひとに伝える)には言語が必要といった意味で、会計はときに「ビジネスの世界の共通言語」とも呼ばれます。
企業は、自ら事業を行うことで新たな価値を生み出し、社会に貢献しながら継続的に活動することを目的としていますが、企業活動や企業の存続のために欠かせないのが「財務会計」です。財務会計とは、企業の経営活動を一定のルールをもとに記録・整理し、財務諸表という形で企業を取り巻く利害関係者*に伝える仕組みのことを指します。財務諸表には、企業がどれだけの成果(売上)や儲け(利益)を上げているのか、いまどれだけの財産(資産)や借金(負債)を持っているのかといった情報がまとめられており、株主や銀行、取引先などが企業との関わりを持ったり続けたりするさいの重要な判断材料となります。
もし、ルールにもとづいた企業の経営状況を報告する仕組みである財務会計がなければ、企業は自分たちに都合の良い嘘をつくことができてしまい、外部のひとたちは企業の実態が分からず、安心して投資や取引を行うことができません。公正で信頼性の高い財務会計があるからこそ、企業は活動の元手となる資金を集め、事業や取引を行うことができるのです。このように、企業が企業の利害関係者とコミュニケーションをとる(情報を伝達する)手段として機能している点が、会計が「ビジネスの世界の共通言語」と呼ばれる理由のひとつです。
私は、財務会計における保守主義を主な研究テーマとしています③。会計の分野で用いられる保守主義とは「企業の利益や財産を『できるだけ慎重に』報告する」という考え方です。もう少しわかりやすくいうと、「企業に関する良いニュースはそれが確実になった段階まで待って、悪いニュースは発生の可能性が高くなった段階で早めに伝える」というルールです。
たとえば、企業が販売する商品が人気になり今後高い値段で売れる見込みがあっても、実際に売れて儲けが確定するまでは利益として計上しません。一方で、商品の価値が下がって原価割れでないと売れなそうな場合は、実際に売っていなくても損失を計上することがあります。これは、企業の業績を実態より良く見せて企業の利害関係者を誤解させることがないようにするためです。経営者は自らをより良く見せたい(会社の成績を少しでも良く見せたい、盛ってしまいたい!)と考えがちですが、保守主義は経営者がそのような誘惑にかられて行動を起こしてしまうことにブレーキをかけ、投資家や銀行などの利害関係者を守る役割を果たしています。
一方で、過度の保守主義(慎重すぎること)は企業の価値を過小評価したり財務会計が提供する情報の有用性を低下させたりするおそれがあるといった批判もあるため、なぜ会計には保守主義という考え方が存在するのか、保守主義はどの程度まで認められるのかといった議論やこれに関する研究も行われています②。
武蔵野大学の経営学科で財務会計を学ぶことの主な目的は、単に計算方法を覚えるといったことではなく、企業が公表する数字の背景にある経営判断や戦略を読み解く力を身につけることにあります。会計を学ぶことで、ニュースで報じられる企業の経営状況を自分の力で理解できるようになります。みなさんと一緒に企業経営に関する「謎解き」ができることを楽しみにしています。
① 高瀨央(2012).「棚卸資産会計における低価基準と保守主義」『武蔵野大学政治経済研究所年報』5,173–204.
② 例えば、髙田知実(2021).『保守主義会計: 実態と経済的機能の実証分析』中央経済社.など。
* 企業の「利害関係者」とは、「企業活動に影響を与えたり、反対に企業活動から影響を受けたりする(企業との関わりを持つことによって得をしたり損をしたりする)ひとたち」です。具体的には、企業の活動に必要な資金を出している株主や銀行、企業の商品やサービスを買うひと(顧客、消費者)、企業で働く従業員、商品やサービスの売買を行っている他企業(取引先)などがあげられます。利害関係者のことを、ステークホルダー(stakeholder)ともいいます。
私の研究テーマは、「人と組織の関係性」です。会社や学校、部活動など、私たちはさまざまな「組織」の中で生活しています。そこでは、一人ひとりが集まって、集団で何かを成し遂げようとします。しかし実際には、「本音が言えない」「対話できない」「かみ合わない」といった問題が起きてしまいます。
私は、そうした問題の背景にある「人と人とのつながり方」や「心の距離」に注目してきました。組織は制度やルールだけで動くのではありません。そこで働く人の感情や信頼関係が大きく影響しています。人が安心して意見を言えたり、違いを認め合えたりする環境はどうすれば生まれるのか。その仕組みを探ることが、私の研究の中心です。
最初にこの問題を提起したのは、仲間と書いた『不機嫌な職場』①という本でした。そこでは、イライラや不満、不安が広がり、雰囲気が悪くなっていく職場の姿を明らかにしました。
しかし最近は、少し違う変化が起きています。あからさまに怒ったり対立したりするのではなく、表面上は穏やかでも、心の中では距離が広がっている職場が増えているのです。私はこれを『静かに分断する職場』⑧と呼んでいます。
リモートワーク*の広がりや価値観の多様化**によって、人と人が直接向き合う機会は減りました。その結果、衝突は減ったように見えても、互いを理解する機会も減っています。気づかないうちに、同じ組織の中で心が離れていく。これが現代の大きな課題だと考えています。
「違い」とどう向き合うか
では、この状況の中で私たちに何が問われているのでしょうか。それは、「違いとどう向き合うか」という問いです。世代、働き方、価値観、性格…。組織の中にはさまざまな違いがあります。違いがあること自体は悪いことではありません。むしろ、新しいアイデアや創造性は、違いから生まれます⑤⑥。
問題は、違いを避けてしまうことです。ぶつからないように距離を取り、深い対話をしなくなると、組織は静かに弱っていきます。だからこそ、安心して話せる場をつくり、互いの考えを丁寧に聴き合うことが重要になります。私は、対話を通じて関係性を再構築する方法を研究し、実践しています⑦。
私の研究の根底にあるのは、「人の感情を大切にしたい」という思いです。嬉しい、悔しい、寂しい、誇らしい。こうした感情は、私たちが何を大事にしているかを教えてくれます②。
組織の中では、効率や成果が重視されがちです。しかし、人は感情をもつ存在です。感情を無視すると、つながりは弱くなります。逆に、感情を言葉にし、共有できると、信頼は深まります③。
私は、感情とつながりを出発点に、人と組織がよりよく生きる道を探っています④。それは、会社だけの話ではありません。学校生活や将来の進路選択にも通じるテーマです。自分は何に心が動くのか。誰と、どんな関係を築きたいのか。そう問い続けることが、自分らしい生き方を見つける第一歩になると、私は考えています。
① 高橋克徳・河合太介・永田稔・渡部幹(2008)『不機嫌な職場』講談社現代新書
② 高橋克徳(2009)『職場は感情で変わる』講談社現代新書
③ 高橋克徳(2009)『潰れない生き方』ベスト新書
④ 高橋克徳(2011)『人が「つながる」マネジメント』中経出版
⑤ 高橋克徳・重光直之(2015)『ワクワクする職場をつくる。』実業之日本社
⑥ 佐々木圭吾・高橋克徳(2016)『イキイキ働くための経営学』翔泳社
⑦ 高橋克徳(2017)『みんなでつなぐリーダーシップ』実業之日本社
⑧ 高橋克徳(2025)『静かに分断する職場』ディスカヴァー携書
* 会社に出勤せず、自宅やカフェなどインターネットがつながる場所で仕事をする働き方のことです。「リモート(remote)」は「遠く離れた」という意味。通勤の負担が減るメリットがある一方で、同僚と直接顔を合わせる機会が減るため、人間関係づくりが難しくなるという課題もあります。大学でも、一部の授業がリモートで行われることがあります。
** 価値観の多様化とは、「何に幸せを感じるか」「何を大切にして生きたいか」という考え方が、人によってバラバラになり、さまざまな生き方が認められるようになること。昔のように「全員が会社のために残業して頑張る」という一つの正解がなくなり、「自分の時間を大事にしたい」「趣味を優先したい」など、一人ひとりの違いが大きくなっている状態を指します。
私が研究テーマとしている「戦略」は、「到達すべき将来の状況と、それを実現するための具体的な方策」と一般的には定義されます①。ビジネスで大きな成果を上げようとしている企業はもちろん、ライバルチームに勝ちたいと考えるスポーツチームや、大学受験で志望校への合格を目指す受験生のような個人にも戦略というものは存在します。
このように、私たち個人にとっても身近な戦略ですが、日常生活の中でその存在が意識されることはあまりありません。なぜなら、戦略は普通、目に見える形では存在しないからです。一生懸命何かを達成しようと躍起*になっている集団や個人はきっと、何らかの戦略を持っているはずです。しかし、そんな人々の知恵と努力の結晶である戦略は必ずしも目に見えるカタチでは存在していないのです。
大学ではじめて「経営戦略論」というものに触れてからずっと、私は目にみえない戦略をどうにかして目に見えるようにできないか、と試行錯誤してきました。なぜそんなことにこだわっているかというと、戦略を目に見えるカタチにすることによって、世の中の人々がよりよい成果を上げやすくなるからです。先駆者の戦略が見えるようになれば、成功のためのセオリーがわかるかもしれません。自分の戦略をわかりやすく可視化できれば、きっと協力者も集めやすくなるでしょう。私自身がビジネスパーソンとして働いたり、企業の戦略立案研修を担当したりする中で、益々、戦略を目に見えるようにすることの意義を感じるようになっています。
私が担当するゼミでは、学生のみなさんと一緒に実際の企業の戦略を目に見えるカタチにする作業、「経営戦略分析」に挑戦しています。例えば、毎年挑戦している経営戦略分析のテーマとして、小売店・飲食店の店舗の立地戦略分析**があります。FORTNITE上の模擬授業でもお話しているとおり②、世の中の小売店・飲食店は、店舗の場所によって顧客の特性が異なることを前提として、商品の種類や店内の設備、店員のオペレーション***などを緻密に設計しています。まさにここにはそれぞれの企業の「知恵と努力の結晶」があるのです。これが立地戦略です。しかし、単に一人の顧客として店舗に訪れているかぎり、私たちはこの立地戦略を意識することはありません。そこで、この見えているようで普段は見えていない立地戦略を、様々なデータを駆使して調査・研究し、戦略分析の資料としてまとめましょう、という活動をゼミで行っています。
「戦略分析」というとスタイリッシュでスマートな印象を受けるかもしれませんが、実際はとても地道で時間のかかる研究活動です。全国数百店舗の最寄り駅からの距離を地道に調べたり、何度も実際の店舗に通いつめたりと、本当に大変です。さらには、調べた膨大なデータをわかりやすく、論理的に一貫したストーリーとして発表資料にまとめることも簡単ではありません。しかし、これこそが「戦略を目に見えるようにする」ということです。高橋大樹ゼミの活動で実際に作成した資料は毎年オープンキャンパスに展示していますので、ぜひ興味のある方は足を運んでみてください。
私個人の研究活動として、最近挑戦していることは、ある分野で無数の個人や組織がとっている戦略の全体的な傾向を明らかにする研究です。戦略を目に見えるようにする戦略分析には、特定の組織や企業の戦略を詳細に明らかにしていく研究と、同じ分野の無数の組織や企業の戦略の全体的傾向を明らかにしている研究の2つのパターンがあります。先ほどお話ししたゼミでの研究活動は、特定の小売店や飲食店を研究するという意味で、前者のタイプの研究になります。私自身以前はこの前者のタイプの研究に強い関心を持っていましたが③④⑤、経営学の研究者自身の研究の戦略を大量の論文データを用いて分析したことをきっかけに⑥⑦⑧、その方法を応用する形で多くの企業の戦略の全体的な傾向を探る研究、つまり後者のタイプの研究に挑戦したいと考えるようになりました⑨。
現在具体的に挑戦しているのは、東証プライム上場企業****の新規事業開発の全体的な傾向を探る研究です。新規事業開発とは、企業が更なる成長を目指すためにこれまでに挑戦していなかったビジネスに挑戦しようとする活動のことです。今後人口減少が予測される日本においては、自社の衰退を防ぐために新しいビジネスへの挑戦が必要不可欠だと言われています。これまで、日本の大企業の新規事業開発の全体像はあまり明らかにされてこなかったのですが、新聞などに掲載される人事異動の情報を活用することで、組織改編の動きから新規事業開発の動向を掴めるのではないかと考えています。
私はかつて、ある企業の経営企画部で新規事業開発の仕事を実際にしていました。昔の仲間への恩返しのつもり、というと少し大げさかも知れませんが、新規事業開発に関する戦略の傾向を目に見えるカタチで描くことによって、かつての同僚のような新規事業開発に試行錯誤するビジネスパーソンにも少しでも貢献できたらと考えています。
① 加藤俊彦(2014).『競争戦略』日経文庫.;経営学では、経営戦略・競争戦略・事業戦略などを総称して、戦略と表現します。どの戦略を指すかは、文脈によります。
② 「【武蔵野大学】日本初、フォートナイトで模擬授業を実施!~【武蔵野大学経営学科】と【日本でいちばん遊んでる会社】が開拓する、未来の教育。~」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000206.000067788.html)
③ 高橋大樹(2012).『セカンドブランド戦略-ボリュームゾーンを狙え-』日本経済評論社.
④ 高橋大樹(2011).「電子化する新聞-新聞の電子化による業界構造の変化とその対応策」沼上幹編『戦略分析ケースブック』第3章, 東洋経済新報社.
⑤ 高橋大樹(2015).「競合企業間の相互作用とイノベーションへの対応行動」『一橋商学論叢』10(2) 35-46.
⑥ 高橋大樹・積田淳史・渡部博志(2017). 「経営学のヒストリカル・レビューに向けて-引用分析およびテキスト分析-」『武蔵野大学政治経済研究所年報 』(14) , 95-118.
⑦ 高橋大樹(2018).「定量的レビューアプローチを用いたリサーチストリームの探索的分析」『武蔵野大学政治経済研究所年報』(16), 275-316.
⑧ 高橋大樹(2021).「計量書誌学的アプローチを用いたマネジメント研究の現状」『武蔵野大学経営研究所紀要』(4), 53-113.
⑨ 高橋大樹(2023).「SDGsと経営学」武蔵野大学教養教育部会 編著『SDGsの基礎~みずから学ぶ世界の課題』(第Ⅲ部第6章), 武蔵野大学出版会.
* 躍起(やっき)になるとは、一生懸命に、必死に物事に取り組むこと。ここでは「なんとしても目標を達成したい!」と、個人やチームが一生懸命になっている様子を表しています。
** お店を「どこに出店するか」だけでなく、その場所に来るお客さんの特徴(学生が多い、会社員が多いなど)に合わせて、売る商品やお店のつくり、店員さんの働き方までを細かく計算して設計する戦略のこと。同じチェーン店でも、場所によって品揃えや雰囲気が違うのはこの戦略のためです。
*** お店や会社をスムーズに回していくための「作業の手順」や「業務の流れ」のこと。例えば、飲食店で店員さんが注文を取ってから料理を出すまでの効率的な動き方などがこれに当たります。
**** 日本最大の株式市場である「東京証券取引所」の中で、最も厳しい基準をクリアしたトップクラスの企業のこと。日本を代表するような、誰もが知っている大企業が多く含まれます。
皆さんは「ビジネス」と聞いて、何を思い浮かべますか。優れた製品、印象的な広告、あるいはカリスマ的な経営者でしょうか。私が専門とする「ビジネスモデル」研究では、そうした個々の要素ではなく、それらがどう組み合わさり、どのように価値を生み、持続的な収益につながっているのかという「仕組み」そのものに注目します。
ビジネスモデルとは、「誰に、どのような価値を、どのように提供するか」という事業の設計図です。スマートフォンの普及やSNSの台頭により、「良いものを作る」だけでは勝てない時代になった今、企業の競争力を理解するうえで、ますます欠かせない視点となっています。
ビジネスモデル研究には、これまで多くの優れた理論が蓄積されてきました。私の研究の土台となっている代表的な枠組みを3つ紹介します。
Ⅰ 事業全体を「見える化」する-ビジネスモデル・キャンバス
「誰に、どのような価値を、どのように届けるか」。この問いに体系的に答えるために、「価値提案」「顧客」「収益構造」など9つの要素を一枚のシートに整理する枠組みが「ビジネスモデル・キャンバス」です①。複雑な事業を構造的に理解するための「世界共通の分析ツール」として、世界中の企業や研究者に使われています。
Ⅱ なぜそのビジネスは価値を生むのか-NICEモデル
新奇性(Novelty)・ロックイン(Lock-in)・補完性(Complementarities)・効率性(Efficiency)という4つの観点から、ビジネスの価値の源泉を説明する枠組みが「NICEモデル」です②。
なかでも有名なのが「ロックイン」*と「補完性」を組み合わせた仕組みです。例えば、シェービング本体を安く売り、専用の替え刃で継続収益を得るモデルがあります。一度本体を買うと替え刃を買い続けるしかなくなる(ロックイン)、しかも本体と替え刃が互いの価値を高め合う(補完性)。この「取引の設計そのもの」が競争力の源泉になる、という考え方です。身近な例では、プリンター本体とインクカートリッジ、ゲーム機本体とソフトの関係も同じ構造です。
Ⅲ 顧客はなぜその商品を選ぶのか――ジョブ理論
「顧客は製品を買うのではなく、自分の困りごとを解決するためにその製品を『雇う』のだ」。この視点が「ジョブ理論」です③。
有名なのが、米国のミルクシェイクを巡る調査事例です。朝にミルクシェイクを買う人を観察すると、目的は「空腹を満たす」ことではなく、「通勤中の退屈を紛らわす」ことでした。片手で持ちながら時間をかけて飲める固めのシェイクが、まさにその「用事(ジョブ)」を解決していたのです。
このように、顧客が本当に解決したいジョブに目を向けると、従来の発想では思いつかなかった製品やサービスのヒントが見えてきます。たとえばスターバックスのフラペチーノも、「喉の渇きを潤す飲み物」としてではなく、「テスト勉強を頑張った自分へのご褒美」や「友人と過ごす場と時間」として選ばれている、と考えると腑に落ちるのではないでしょうか。
私の研究では、実際の企業を対象とした事例研究を中心にしています。現実のビジネスは複雑であり、理論だけでは見えてこない試行錯誤が数多く存在します。個別の事例を丁寧に分析することで、どのような設計が価値を生み、どのような条件のもとで成功や変化が生じるのかを明らかにしようとしています。
現在、論文執筆に向けて分析を進めているのが、新しい不動産サービス「NOT A HOTEL」です④。
このサービスは、別荘の「所有」とホテルの「利用」という、従来は別々だった仕組みを融合させています。先に紹介した3つの視点で整理すると、次のような問いが浮かびあがります。
Ⅰ ビジネスモデル・キャンバスの観点では、この事業の収益構造はどう設計されているか。
Ⅱ NICEモデルの観点では、デジタル技術によって流動性の低かった不動産をいかに柔軟な資産へと組み替えているか(新奇性・補完性)。
Ⅲ ジョブ理論の観点では、「所有の満足感」と「管理の手間からの解放」という一見相反するジョブを、どのように同時に満たしているか。
こうした問いを理論的に解明することは、現代のビジネスモデル研究における重要なテーマの一つです。
大学でビジネスを学ぶ醍醐味は、身の回りにあるサービスの「裏側の設計図」まで読み解けるようになる点にあります。普段何気なく使っているコンビニもSNSも、「どのような仕組みで価値を生んでいるのか」という視点で見れば、全く違った姿が見えてきます。
社会の仕組みを理解し、新しい仕組みを構想する力は、将来どのような分野に進んでも武器になります。ビジネスの世界には、まだ説明されていない現象や、これから生まれる仕組みが数多く存在しています。そうした問いを、皆さんとともに考え、議論していけることを楽しみにしています。
① Osterwalder, A., & Pigneur, Y. (2010). Business model generation: A handbook for visionaries, game changers, and challengers. John Wiley & Sons.(アレックス・オスターワルダー, イヴ・ピニュール著, 小山龍介訳『ビジネスモデル・ジェネレーション:ビジネスモデル設計書』翔泳社, 2012年)
② Amit, R., & Zott, C. (2001). Value creation in e-business. Strategic Management Journal, 22(6-7), 493–520.
③ Christensen, C. M., Hall, T., Dillon, K., & Duncan, D. S. (2016). Competing against luck: The story of innovation and customer choice. HarperBusiness.(クレイトン・クリステンセン他著, 依田光江訳『ジョブ理論:イノベーションを予測可能にする公式』ハーパーコリンズ・ジャパン, 2017年)
④NOT A HOTEL株式会社 https://notahotel.com/
* ロックインとは、一度その会社の商品やサービスを使うと、他社へ乗り換えるのが面倒になったり損になったりして、抜け出せなくなる仕組みのこと。たとえば、「iPhoneを使っているから、連携しやすいAppleのイヤホンやパソコンで揃えよう」となるのも、強力なロックインの一種です。
私の専門は、コーポレート・ガバナンスとコーポレート・ファイナンスです。特に、企業の付加価値分配政策について研究しています。
コーポレート・ガバナンス(企業統治)とは、企業が「あるべき姿(目的、存在理由)」に向かって正しく運営されるように、監視したりコントロールしたりする仕組みのことです。企業は経営者だけのものではありません。コーポレート・ガバナンスとは、株主や従業員、銀行などの「利害関係者」が、経営者が自分勝手な暴走をしないようにチェックし、企業が創造する付加価値*を最大化できるようにサポートするための仕組みを指します。企業の形は様々ですから、企業の数だけコーポレート・ガバナンスが存在します。
コーポレート・ファイナンス(企業財務)とは、会社が成長するために必要な資金をどうやって集め(銀行から借りるか、株主に投資してもらうか)、資金をどこに投資すれば沢山の付加価値を創造できるかを考え、実行することです。単なる経理や計算ではなく、資金によって会社の未来をデザインするという考え方です。
この2つの視点から、企業が創造した付加価値を企業利害関係者**に如何に配分しているか、を研究しています。
企業の目的は二つあります。一つは付加価値を創造することです。もう一つは、創造した付加価値を企業の利害関係者に公平に分配することです。経営学の多くの科目では、前者の目的である「付加価値創造の最大化」を達成するための必要な知識を学びます。一方で、私の専門は、コーポレート・ガバナンスとコーポレート・ファイナンスに関する知識を活用し、後者の目的である「創造した付加価値の公平な分配政策」を達成するための現状分析、課題抽出、対応策作成を行うことです。
皆さんもご存じのアップルやマイクロソフトを始めとする米国企業の一部は年間10兆円を超える企業利益を計上する一方で、米国家計での所得・貯蓄格差は拡大しています。その結果、米国社会の分断は深刻化しています。米国社会が分断している背景の一つは、企業が創造した巨額な付加価値を、米国社会が豊かになるように、米国企業が上手く分配できていないからです。例えば、社会分断の現状や社会分断に対する具体的な対応策がESG財務戦略***として示されています①。
企業による主要な付加価値分配先は、設備投資、研究開発費、証券投資、株主還元、賃金、手持ち現金です****。これら6つの付加価値分配方法は、昨今、マスコミ等で動向が取り上げられ、多くの日本人により注目されています。
具体的には、海外での設備投資増加により日本企業の設備投資は増加している一方で、日本を豊かにすることに直結する日本国内の設備投資は停滞していることが示されています②。
加えて、日本企業は企業投資(設備投資+研究開発費+証券投資)と株主還元に注力し、付加価値分配先に占める賃金の比率は低下傾向です。加えて、日本企業の付加価値創造の最大のエンジンは人件費が約40%を占める研究開発費であることが示されています③。
コーポレート・ガバナンスおよびコーポレート・ファイナンスに関する理論を学び、加えて、日本企業のビジネス現場を訪問することにより、皆さん一人一人を含む日本社会の豊かさに直結する付加価値分配政策を体感・分析することが可能です。
① 桑島浩彰・田中慎一・保田隆明(2022)「SDGs時代を勝ち抜く ESG財務戦略」『ダイヤモンド社』
② 羽田徹也(2018)「リーマンショック以降の日本の輸出企業の設備投資の変化」『金融経済研究』第41号、40-61頁
③ 羽田徹也(2020)「日本製造業の投資行動および実体経済への影響」博士論文(一橋大学)
* 企業が原材料などに独自の工夫を加えて、新しく生み出した価値(儲け)の合計のこと。生み出された価値は、最終的にみんなで分け合います。具体的には、働く人の人件費(給料)、会社の取り分である企業利益、国へ納める税金などとして分配されます。付加価値が大きいほど、みんなの取り分も増えることになります。
** 企業の活動に関わり、影響を与え合っている人たちのこと。給料を受け取る従業員、投資をしている株主、融資を行う債権者(銀行)、協力して仕事をする取引先などが含まれます。また、企業が税金を納めたり、地元の雇用を生んだり、環境を守ったりすることで関わる地域社会も大切なメンバーです。企業は、生み出した価値をこれらの人々に公平に分配し、信頼される存在であり続ける必要があります。
*** 環境(Environment)、社会規律(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの視点を大切にしながら、同時に資金(財務)もしっかり稼いでいくための戦略のこと。単に利益を追うだけでなく、「地球に優しく、社会からも信頼される企業」になることで、世界中の投資家から応援(投資)されやすくなり、結果として会社の価値をさらに高めていくという、最新の経営スタイルです。
**** 将来のために工場や機械を整える設備投資、新しい技術を生む研究開発費、働く人への賃金(給料)、出資者に報いる株主還元(配当など)、他社の株などで運用する証券投資、そして不測の事態に備えた貯金である手持ち現金などが、代表的な資金の使い道です。
イノベーションは、新しい技術や商品が世の中に広がり、人びとの当たり前が変わることです。天才のひらめきで起きるように見えることもありますが、現実には、一人や一社の行為だけで進むものではありません。会社が動けば競争相手も動き、使う人も行為を変えます。行為が連なった結果として、最初のねらいとは違う結果が生まれることがあります。経営学では、そのような結果を意図せざる結果*と呼びます①。
新しい発明をした会社は、特許**という権利によって発明を保護します。特許を持つ会社は、ほかの会社に発明の利用を認めるかどうかを決めます。利用を認める約束を、特許ライセンスと呼びます。 利用を認めない場合、ほかの会社は同じ発明を使えません。その結果、発明を持つ会社が有利に見えます。しかし競争相手は、異なる方法で同じ目的を達成しようとして、異なる技術開発に取り組みます。技術を囲い込む行為が、結果として対抗技術の成長につながる場合があります。私は、技術を使わせるかどうかの方針が、技術の進み方をどう変えるのかを研究しました②。
技術の発展は、研究室や工場の中だけで起きるわけではありません。製品は、家庭で使われ、評価され、その評価が次の改良につながります。家電の歴史は、会社や技術者が中心の物語として語られがちですが、家庭で使う主婦の意見や評価が積み重なることで、技術の方向そのものが変わることがあります。戦後の日本の家電では、家庭で使う主婦の評価が会社に伝わり、改良の方向に影響を与えました。私は、1950年から1990年の家電産業を分析し、主婦が家電技術の発展に重要な役割を果たしていたことを示しました③***。
イノベーションは、一人のひらめきだけで起きるものではありません。企業、競合企業、顧客などの行為がつながり、その途中で意図せざる結果が生まれます。経営学の面白さの一つは、行為のつながりを資料と理屈で追い、なぜその結果になったのかを説明できる点にあります。高校までの勉強では、正解を当てることが大切だったかもしれませんが、大学では、正解が一つに決まらない問いに向き合う面白さが増えていきます。経営学の授業では、その力を一緒に育てていきます。
① 沼上幹(2000).『行為の経営学―経営学における意図せざる結果の探究』白桃書房.
② 平野貴士(2020).「技術供与の方針と技術発展の方向性――限定的な技術供与が技術的優位性に及ぼす影響」『組織科学』53(3),62–74.https://doi.org/10.11207/soshikikagaku.53.3_62
③ Hirano, T., Sakai, K., & Donzé, P.-Y. (2024). Housewives and the growth of the Japanese electrical appliance industry, 1950–1990. Business History Review, 98(2), 389–416. https://doi.org/10.1017/S000768052400028X
* 自分が「こうしたい!」と思ってやった行動が、周りの反応や状況と絡み合って、予想もしていなかった別の結果を引き起こしてしまうこと。経営学では、一人の成功や失敗だけでなく、社会全体がどう動いてしまったかという「予想外のストーリー」を大切に考えます。
** 新しい発明をした人や会社に対して、一定の期間、その発明を独占して使える権利を国が認める制度のこと。せっかく苦労して発明した技術を、他の人に勝手にマネされないように守るためのルールです。誰かが特許を取得した技術を一定の期間の間に使うためには、その権利を持っている人や会社に許可をもらい、「ライセンス料(使用料)」というお金を払う必要があります。
*** 例えば、かつての洗濯機は「脱水中にフタを開けても止まらない」という危険な設計でした。これを実際に使う主婦たちが雑誌などを通じて危ないと声を上げたことで、今の「フタを開けると自動でブレーキがかかる」仕組みに改良されました。また、メモリの読み取りやすさや、日本独自の電気炊飯器のタイマー機能なども、忙しい主婦のニーズから生まれた大切な進化です。
まちづくりは、大きな方針に導かれたさまざまな諸活動の集積であり、総体です。その中には、見逃しがちな小さな事実や活動も含まれており、それらが一体となって有機的に繋がり*、機能しています。
昨今、まちづくりやエリアマネジメントという言葉を随分と耳にするようになりました。直訳すると地域経営となるエリアマネジメントは、「地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者等による主体的な取り組み」①と定義されています。地域ごとの価値をしっかりと把握し定義づけること、それをどう伸長させるかという戦略を立案し実行することを、より精度高く求められています。そのため、今までの公共主体で行われてきたまちづくりから、多様な住民や民間の積極的な参画が非常に重要であり、そのシナジー効果**に大きな期待が寄せられています。
まちには、たくさんの構成要素があります。住宅、学校、公園、病院、商店・商業施設、スポーツ施設、などの具体的な人々の活動基盤(アクティビティ)と、道路、上下水道、電線・電柱、ガス管、などの人々の生活の根本を支えている社会基盤・生活基盤(インフラストラクチャ)に分けることができます。どれもが私たちの生活に欠かすことのできない、なくてはならないものであり、それぞれの要素が複雑に繋がりあっている大きなかつ複雑な生態系になっています。これらの都市構造の全体をよりなるべく俯瞰した上で、それぞれの課題解決を考えていくという思考プロセスが大切です。
マクロ視点でみると、日本のまちづくりはコンパクト化へ大きく移行しています。職住近接、歩いて暮らせるまちづくり等、より密集して豊かに暮らしていくことを思考し、人口減少、少子高齢化、地域の過疎化、等、課題先進国と呼ばれる日本の諸課題をどう解決していくか、が問われています。また、電力やICT技術の効率的利用を推進するスマートシティ***化に代表される最新の技術革新に伴い、まちづくりも大いに変革・アップデートされていくフェーズにあります。一方で、それらに要する費用も莫大なものとなってきており、道路や橋梁(きょうりょう)、水道設備など老朽化が激しい社会基盤等も勘案すると、コンパクト化の推進は不可欠ともいえます。
まちづくりは常に行われているものです。数多ある先行事例から、何を学び、当該地域のエリアマネジメントに何を活かすか、ということが非常に大切であり、大いに関心を寄せています。交通インフラの整備や中心市街地の活性化、居住地域の生活インフラの整備など地方都市のコンパクトなまちづくり活動を通じ②、大きな戦略や実施政策にとどまることなく、細かな事象や活動にも焦点をあてることで、まちづくり全般の諸活動への興味関心を促し、多様な事象・活動への気づきや認識をより深めていければと思っています。
①「エリアマネジメント推進マニュアル(2008年)」国土交通省
② 中島直人ら(2020)『コンパクトシティのアーバニズム コンパクトなまちづくり,富山の経験』東大出版会.
* それぞれがバラバラに存在するのではなく、まるで生き物の体の一部のように、お互いに助け合ったり影響を与え合ったりして、全体として一つの大きな仕組みを作っていること。公園ができることで周りの商店が賑わうように、街の要素が連鎖している様子を指します。
** 複数の要素が結びつくことで、それぞれの要素が単独で働いたときよりも(1 + 1 = 2)、より大きな価値が得られること(1 + 1 > 2)。スポーツ施設で一人でトレーニングするのもいいけれど、友だちと行くともっと頑張れたり楽しかったりするかもしれません。そんなとき、シナジー効果があるといえます。
*** ICT技術(information and communication technology)が発展・普及し、町中に張り巡らされるようになると、これまではできなかったことができるようになります。実際の交通量を計測して信号のタイミングを変えたり、ドローンが町中を飛び回って人びとの安全を見守ってくれたりするようになるかもしれません。
コンビニエンスストアでペットボトルの水が100円で売られていたとしても、きっと皆さんは感動することも驚嘆することもないでしょう。しかし、ちょっと考えてみてください。ペットボトルは誰がどうやって作って、いくらで売っているのだろう? ペットボトルの原料は石油由来のポリエステル樹脂です*。つまり原料として石油が必要になりますが、石油の採掘にはきっと地中深くまでドリルで掘っていかなければならないでしょう。ドリルはどこで誰がどうやって作り、いくらで販売しているのでしょうか? タンカーで運んでこなければなりませんね。石油精製のための巨大な化学工場施設も必要でしょう。
ペットボトルがあっても中に水が入っていなければ意味がありません。綺麗な水源から取水され、ペットボトルに入れられ、コンビニエンスストアまで運ばれて棚に並べられたものを皆さんは何事もなかったように100円で購入しているのです。最近はキャッシュレスで購入している人も多いでしょう。支払われたお金はどのようにしてペットボトルを作った人まで流れていくのでしょうか?こんなことを深刻に考えることなくその恩恵を受けられるのは、「マーケティング」活動があるからです。非常に多くの人々の活動が、信じられないくらい上手く統合されて私たちの生活を支えています。マーケティング活動がなければ、無人島のロビンソン・クルーソー**のように全て自給自足で生きていく術を考えなくてはならないでしょう。
飛行機は数百万点の部品から構成されているそうですが(ペットボトルの水よりだいぶ複雑ですね)、最も基本的な原則は経済学で説明されます。ネジ1本、ボルト1個、需要と供給によって価格が決まります。価格が決まらなければ部品の調達も原価の計算もできません。そうなると、アダム・スミスが『国富論』①で力説した、分業による協業のメリットを享受することはできません***。
そもそもせっかく飛行機を作っても料金が高すぎて誰もその飛行機に乗ってくれなければ、それを作った企業は潰れてしまいます。最近私たちが経験したコロナ禍では、海外への渡航が制限されたために飛行機に関連する企業は大きな困難に直面しました。多くの人々が安心してリーゾナブルな料金で好きなところに行ける仕組みを構想ししっかり運営できる状況が成立して初めて、サービスを供給する側とサービスを受容する側の双方が満足する状態が生まれるのです。
このような複雑でリアルな現象を理解するためには、経済学、経営学、心理学、社会学、統計学といった多様な領域で研究され蓄積された知見が必要になります。したがって、マーケティング研究者のバックグラウンドは多様です。同じ現象に興味があっても、異なった領域からのアプローチは日常茶飯事です。
最近話題になっているのは、コーゼーションという考え方です。コーゼーションというのは、明確に決められた目的を達成するために、因果関係を前提にして未来を予測し、予測に基づいて最適な計画(戦略)をたててそれを実施するという考え方です。経済学が典型ですが、マーケティングでもこのような立場から議論・研究されるのが普通です。しかし、将来が大きく変わっていくことだけがわかっていても、どのように変わっていくかが全く見通せないような状況にあっては、このアプローチには大きな限界があります。このような問題意識から生まれたのがエフェクチュエーションという考え方で、行為を重視し、出会いの中で生まれたパートナーとの関係で目的の変更も辞さないという立場から議論され研究が始まっています。
生成AIが社会実装されこれから大きく変貌を遂げる社会において、このような考え方が生まれてきたのは興味深いことだと思います。企業のマーケティング活動も大きく変わってきています。マーケティングの事例の変化を時間軸の中で整理することが、私の最近の研究の問題意識です。これからどんな新しいマーケティングの考え方が時代を動かしていくのか、驚愕する時代になってきたと感じています。
①Smith, A. (2020). 国富論 (山岡洋一, 訳). 日本経済新聞出版. (原著発行 1776年)
②吉田満梨・中村龍太(2023)『エフェクチュエーション』ダイヤモンド社
* 普段私たちが何気なく手に取る透明なボトルですが、その正体はポリエチレンテレフタレート(PET)という化学物質で、元をたどれば地中深くから掘り出された真っ黒な石油です。真っ黒な石油は、巨大なドリルで採掘された石油がタンカーで海を越え、日本の精製工場で複雑な化学反応を繰り返すことで、ようやくあの軽くて丈夫な樹脂へと姿を変えるのです。
** 18世紀の小説家ダニエル・デフォーが描いた、難破して無人島にたった一人で取り残された男の物語です。彼は生き延びるために、家を建て、野生のヤギを飼い、麦を育ててパンを焼くという、たった一人の自給自足生活を28年間も続けました。現代の私たちが、喉が渇いたときにコンビニで100円の水を当たり前のように買えるのは、石油を掘る人、ペットボトルを作る人、トラックで運ぶ人など、世界中の何万人もの活動がマーケティングという仕組みでスムーズにバトンタッチされているからです。もしこのバトン(マーケティング)が途切れてしまったら、私たちはロビンソンのように、飲み水一杯を手に入れるために地面を掘り、容器を粘土で焼き固めるところから始めなければならないのです。
*** 「経済学の父」と呼ばれる18世紀の思想家アダム・スミスは、その代表作『国富論』の中で、ピン(針)を作る工場を例に挙げて「チームプレイの魔法」を解き明かしました。一人で針を作ろうとすると、鉄を伸ばし、切り、尖らせるといった全工程を一人でこなさなければならず、一日一本作るのがやっとかもしれません。しかし、工程を細かく分けて十人の専門家が分担(分業)し、それを一つの流れとして連携(協業)させれば、一日に数万本もの針を作れるようになります。
マーケティングという言葉が指し示す範囲は非常に広く、その特徴は、企業と消費者という二者の視点に象徴されます。企業の立場から、どのようにすればモノ・サービスが売れる仕組みを作ることができるのかを考えることもマーケティングですし、消費者の立場から、なぜ人はモノ・サービスが欲しくなるのかを考えることもマーケティングに含まれます。細かく区分すれば、前者はマーケティングマネジメント、後者は消費者行動*と呼ばれる領域です。
企業や消費者を取り巻く社会や経済の環境は、日々変化しています。したがって、企業がマーケティング戦略を立てたり、消費者理解を深めたりするためには、市場環境という視点も欠かせません。その時々で変わりゆく市場環境に合わせて、社会に価値を創り出すための方策をさまざまな立場から考えることが、マーケティングにおいて重要な観点だと考えています。
私が主に取り組んでいる研究は、企業が顧客との良好な関係性を深めるために行う、マーケティングコミュニケーションに関する研究です①。企業が行うマーケティングコミュニケーション活動の中でも、特にオンラインプラットフォームの一つである、Social Networking Service(以下、SNS)上のマーケティングコミュニケーションを研究対象としています。SNS上のコミュニケーションには、企業と企業の間のものだけでなく、企業と消費者、さらには消費者同士のやり取りなど、複数の主体が関与します。どのようなコミュニケーションが消費者に影響を与え、ひいては企業にとって望ましい結果をもたらすのかについて研究しています②③④。
近年では、テクノロジーの進展により、情報の発信者は必ずしも「人」に限られなくなっています。AIによる推奨情報が、従来有効とされてきた、広告やインフルエンサーによる推奨、クチコミと比較して、どの程度の説得力を持つのかについても関心を持って研究しています⑤。
オンラインプラットフォーム上には、有益な情報が数多く存在する一方で、誤った情報も同時に流通しています。例えば、企業から報酬を受け取っていることを隠したまま他者に商品やサービスを推奨する、ステルスマーケティング*の問題や、生成AIの発達によって、個人でもフェイク情報**を容易に作成できる状況が生まれています。情報が瞬時に拡散される現代において、消費者が何を「信頼」し、企業はどのようにして消費者を「説得」すれば良いのかを考えていくことは、マーケティングコミュニケーション研究において、意義のあることだと思っています。
経営学という学問領域の中でも、マーケティングは特に、学びを自分自身と結びつけやすい領域だと思います。なぜなら、私達一人ひとりに消費者としての実体験があるからです。皆さんとともに、日々の疑問を出発点として考えを深め、大学での学びへと繋げていきたいと思います。
① 武蔵野大学『学問の地平から 教員が語る、研究の最前線 第62回経営学(マーケティング)』https://www.musashino-u.ac.jp/research/interview/62_matsui/
② 松井彩子. (2021). 「SNS における大多数の他者の影響力の実証 ― 「いいね」や「閲覧」数はユーザー行動に影響を及ぼすのか? ―」『マーケティングレビュー』2 (1), 30-37. https://doi.org/10.7222/marketingreview.2021.004
③ 松井彩子. (2021). 「SNSにおける他者の存在の影響」『マーケティングジャーナル』40 (3), 67-77. https://doi.org/10.7222/marketing.2021.008
④ 松井彩子. (2023). 「スポーツスポンサーシップにおけるネガティブインシデントへの消費者の反応 ― 東京五輪のスポンサー汚職に関するツイートデータを用いて ―」『マーケティングジャーナル』42 (4), 39-50. https://doi.org/10.7222/marketing.2023.020
⑤ Aoki, T., & Matsui, A. (2025). Do Algorithmic Recommendations Complement or Substitute Advertising and Influencers? Consumer Attitudes Toward Recommendation Information and the Formation of Purchase Intentions. Computers in Human Behavior, 172, Article 108735. https://doi.org/10.1016/j.chb.2025.108735
* 広告であるにもかかわらず、その事実を隠して、あたかも第三者の純粋な感想であるかのように装い、特定の商品やサービスを推奨する行為のことです。サクラややらせとも呼ばれますが、SNS時代においては、企業から報酬を受け取ったインフルエンサーが、広告であることを明記(#PR, #giftedなど)せずに投稿するケースが問題視されています。消費者の「自分で選びたい」という主体性や、情報に対する信頼を裏切る行為として、日本では2023年10月から景品表示法により規制の対象となりました。何が真実で、誰を信じるべきかが曖昧な現代において、企業と消費者が誠実に向き合うための境界線を問うテーマです。
** 事実に基づかない、あるいは意図的に歪められた虚偽の情報のことです。かつてのデマや噂とは異なり、現代ではSNSの拡散力や生成AIの技術を悪用することで、本物と見分けがつかないほど精巧な画像・動画・文章が瞬時に作り出され、あっという間に広まってしまう点に深刻な危うさがあります。単なるいたずらに留まらず、企業のブランド価値を不当に下げたり、人々の「信頼」の基盤を壊したりする社会的な脅威として、今まさに研究が急がれている分野です。
みなさんは道を歩いているとき、隣を走る自動車のスピードが速くて怖いな、と感じたことはありませんか。またはオープンカフェに行った時に、自動車の騒音がうるさくて、おしゃべりがしづらかった思い出はありませんか。自動車に乗っている人は、速く走れて快適ですが、周りの歩いている人やまちに滞在する人に、自分の運転がどういう影響を与えているかを想像することはありません。自分が行っている行動が、第三者に影響を与えることを経済学の言葉で「外部効果*」と言います。モビリティは外部効果が高い分野だと考えられています。
私はこのモビリティの外部効果を、むしろ良い方向(正の外部効果)にもっていく取組を進めています。具体的には、道路や乗り物の速度をゆっくりにするというものです。速度の差が大きいと速度の遅い人は怖さを感じます。一方、速度の差が小さい場合、つまり隣を走る自動車の速度が十分ゆっくりだったら(日本では自動車がゆっくり走ることを「徐行」ともいいますね)、歩行者も自動車を怖いと感じません。また、自動車もバイクもEVになれば騒音が出ず、まちが静かになります。落ち着いてオープンカフェでコーヒーを飲める場所が増えることでしょう。
このようなまちや他者にとっても良い外部効果を持つモビリティを実現する一つの形として、私は「グリーンスローモビリティ」という時速20km未満の小型電動車が地域の移動を支える仕組みを日本で推進しています①。ゴルフカートのような乗り物や、トトロの猫バスのような、普通の自動車やバスとは異なる形の乗って楽しい乗り物です。速度がゆっくりだから、法律の規制が緩和されて特別にまちなかの公道を走ることができます。
「ゆっくり」という視点は、様々な価値を創出すると考えています。移動の速度を少し落とすだけで、安全性が高まり、人と人との会話が生まれ、地域を歩いて回る時間が増えます。特に、非日常観が求められる観光では、ゆっくりは重要です。速く回る観光よりも、ゆっくり滞在し、地域の文化や人と関わる観光のほうが、結果として地域の価値を高めます。
速さや効率性よりも、コミュニケーションや安全、五感を重視するこの取り組みは、地域のあり方そのものを見直すきっかけになります。私はこれを、単なる交通政策ではなく、「ゆっくり」を軸にした価値観への社会変革の実践だと考えています②。
ヨーロッパでは、まちなかの道路の速度を時速30km以下にするまちづくり「ville30(時速30kmのまち)」の取り組みが急速に進んでいます。自動車だけではない多様な移動を多くの人が実現でき、安全で、静かで、鳥の声が聞こえて、穏やかで、個人のQOL(クオリティオブライフ)**を高め、経済的にも文化的にも町が豊かになると考えられています。
日本でも2026年9月からセンターラインのない道路の規制速度が、時速60kmから時速30kmに引き下げられます。ゆっくりの社会づくりが、いま日本でも始まろうとしています③。グリーンスローモビリティを通した新しい時代のまちの形や持続可能な優しい社会の在り方を、皆さんと一緒に議論して何か形にできることを楽しみにしています。
① 三重野真代・交通エコロジーモビリティ財団(2021)『グリーンスローモビリティ―小さな低速電動車が公共交通と地域を変える―』学芸出版社.
② 朝日新聞telling(2024年9月24日)「サステナブルバトン5『グリーンスローモビリティ』で三重野真代さんが目指す“ゆっくり”な街づくり」https://telling.asahi.com/article/15429629
③ 三重野真代(2025年7月7日)「都市交通の未来(下)道路の低速化で回遊性向上」『日本経済新聞 経済教室』.
* 自分たちの活動(生産や消費)が、市場を通さずに、直接第三者に対して影響を与えてしまうことです。例えば、自動車の騒音や排気ガスが周囲の人の安らぎを奪ってしまうことは「負の外部効果」と呼ばれます。逆に、三重野先生が提唱するように、速度を落とした静かなモビリティが街の会話を増やし、賑わいを生むことは、社会をより良くする「正の外部効果」となります。自分の「便利さ」が、見えないところで誰かの不便になっていないか、あるいは誰かの喜びに変えられるか。「他者への想像力」を働かせるための大切なキーワードです。
** 「生活の質」や「人生の質」と訳されます。どれだけお金を持っているか、どれだけ効率よく動けるかといった「豊かさの量」ではなく、その人自身が毎日をどれだけ心身ともに健康で、満足感や幸福感を持って過ごせているかという「豊かさの質」に注目する考え方です。鳥の声が聞こえる静かな街を歩くことや、誰かと笑顔で言葉を交わすこと。そんな数値化しにくいけれど、生きていく上で欠かせない心地よさの指標として、都市計画や医療など幅広い分野で重視されています。
リーダーシップ*という言葉を耳にしたことがあると思います。リーダーシップを発揮してきている方も多いと思いますし、有名人を含む他の人のリーダーシップを目にして、すごいなぁ、と思うこともあると思います。
たしかにリーダーシップは重要です。でも、リーダーシップが発揮されているとき、そこにはリーダーシップを発揮していない側の人、言い換えればリーダーシップを受けている人が多数存在しているはずです。
リーダーと対になる言葉でフォロワーという言葉があります。リーダーについていく人、というイメージですが、必ずしも従属的なわけではありません。みなさんは、リーダーの指示に納得できなかった経験はありませんか?納得できなくて、指示されたとおりに全部ちゃんとはやらずに手を抜いた、なんてことはありませんか?
そのような行動は、もちろん褒められたことではないというのがほとんどでしょう。でも、ここに普段はあまり強調されない大切なポイントがあります。そう、メンバー全員で何かに取り組もうとするならば、実はフォロワーの行動も重要なのです。
フォロワーが納得して取り組むためにリーダーシップが重要であることはその通りです。しかしフォロワーに視点を移せば、言われたことをイヤイヤやるという場合もあれば、より主体的に取り組む場合もあるはずです。
フォロワーシップ**という言葉があります。リーダーシップと違って耳慣れず、分かりにくい言葉ですが、全体が目指すことに対して主体的にリーダーやメンバーに働きかけ、行動することです。
フォロワーシップという言葉は知らなくても、主体性が大事だと言われることはあったのではないでしょうか。その主体性は、全体が目指すことにフォロワーとして関わっていくときに不可欠なのです。
私は、ここ数年、フォロワーの側に注目した研究をしています。その中でも、特に、リーダーでもある立場の人に焦点を当てています。会社だとミドルマネジャーとか中間管理職とよばれる人たちです***。中学や高校の部活動での2年生の副部長を想像してもらえると、少しイメージがわくかもしれません。3年の部長というリーダーの下にいるという意味ではフォロワーだけれども、2年生や1年生を率いていくという意味ではリーダーでもある、という感じです。リーダーが発揮するフォロワーシップに注目して学会で発表をしたり①、同じ人のリーダーシップとフォロワーシップの関係を分析して論文にしたりしています②。
最初にも記したように、大半はリーダーではありません。もちろん、ネガティブな意味ではありません。ほとんどの人は、今はリーダーシップを発揮する立場にいたとしても、その立場に至るまでにはフォロワーとなっていた局面が多くあったはずです。誤解を恐れず単純化すれば、会社であれば社長以外はフォロワー。その社長だって、創業者でもない限り会社に入っていきなり社長というのはレアケースです。
そうだとすると、リーダーの下でフォロワーとして行動する。その際に、主体的に取り組もうとすれば、リーダーと同じくらい、場合によってはそれ以上に知識を持っていた方がいいでしょう。そうであれば、フォロワーという立場にいる時であっても幅広い視点が不可欠です。
これが、ここ最近の私の研究を基に私なりに考える、経営学科で色々学ぶ理由です。とはいえ、どのような分野が存在するのか分からないと思いますので、経営学科の新入生向けに《経営学入門》を教える際には、経営学科での学びの鳥瞰図****が示せるように意識しています③。
① 渡部博志(2023,Sep.).「リーダーが発揮するフォロワーシップに対する評価」日本経営学会第97回大会,神戸学院大学.
② 渡部博志(2023).「期待された行動の不一致がもたらす評価への影響 ―リーダーシップとフォロワーシップの共存の観点から―」『武蔵野大学経営研究所紀要』(8),91-107.
③ 渡部博志(2026).『経営学は金儲けの学問か?』武蔵野大学出版会. ※《経営学入門》の授業の内容を織り込んだものです
* 目標を達成するために、チームや組織を特定の方向へ導き、メンバーの行動に影響を与える力のことです。カリスマ的なリーダーが強引に引っ張る姿を想像しがちですが、本来は周囲のやる気を引き出し、進むべき道を指し示す羅針盤のような役割を指します。ただし、どれほど優れたリーダーがいても、その意思を汲み取って動くフォロワーがいなければ、どんな計画も絵に描いた餅に終わってしまいます。
** リーダーの指示を単に待つのではなく、チーム全体の目的を理解した上で、主体的にリーダーを支え、メンバーに働きかける力のことです。時にはリーダーの判断ミスを冷静に指摘したり、チームの雰囲気を良くするために自分から動いたりすることも含まれます。「脇役」ではなく、チームの成果を左右する「もう一人の主役」としての振る舞いであり、組織の実行力を決める真の鍵となる能力です。
*** 組織の中で、経営陣(トップ)と現場の間に立つ役割の人たちのことです。部活動に例えるなら、顧問の先生や部長の意向を理解しながら、後輩たちを直接まとめ上げる「副部長」や「学年リーダー」のような存在。上からはフォロワーとしての動きを期待され、下からはリーダーとして頼られるため、両方の視点を使い分けるバランス感覚が求められます。
**** 空を飛ぶ鳥が高いところから地面を見下ろすように描いた地図を、鳥瞰図といいます。ここでは、経営学という広大な学問全体をバランスよく見渡した地図のことです。会計、マーケティング、組織論など、バラバラに見える知識が「会社や社会を動かす」という一つの目的のためにどう繋がっているのか。その全体像を把握することで、何を学べばどう成長できるのかが理解しやすくなります。